ヤマガラに遊んでもらう・・・

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 昼寝をしていたら、山小屋の下から「こんにちわー」と誰かが呼んでいる。ウッドデッキに出てみると、知り合いの元大学教授のご夫婦である。この春に定年退官し、ここ生石山の中腹に移住してきた。

 ご夫婦は近くの温泉に行き、その帰りに立ち寄ってくれたのだ。山小屋の裏手には涼しい風が吹いているので、そこのテーブルに案内し、コーヒーをお出した。すると早速、懇意にしているヤマガラのお出ましである。

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 ヤマガラはいきなり、ご主人の頭の上に飛び乗った。次は奥さんの肩に止まった。二人とも「これ、何なの!」と驚きである。「へ、へへ、うちの接待係なんですよ」・・・。

 いつもポケットに入れているヒマワリの種をご夫婦に渡すと、何羽ものヤマガラが次々と手のひらに乗り、争うように餌をくわえ飛び去る。ヤマガラが頭や手の上を這い回り、その感触にお二人とも感激の様子である。

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 毎日、たっぷり餌を与えているので、わが山小屋を縄張りにしているヤマガラは人間を怖がらない。頭や肩に乗るとわれらが喜ぶのを知っているので、お腹が減るとまとわりつくのだ。外でお茶を飲んだり、作業をしたりする時は、必ず餌をポケットに入れておく。

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 実際のところ、われら夫婦は、ヤマガラに遊んでもらっているのだ。人との交わりが少ない森の生活に、楽しみや潤いをもたらしてくれてもいるのも事実である。

  口うるさい女房に対し、押し黙る日があっても、ヤマガラとはよく語をするのだ・・・。

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一押しラーメン・・・京都の田舎道

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 紀伊山地のわが山小屋から、大津市の自宅へは月に一度ほど帰る。阪和道から近畿道、名神高速を通って帰るコースと、奈良、京都を通るコースがあるが、後者のルートは時間がかかる代わりに高速料金がいらない。暇なわれらは、当然お金のかからない奈良経由で大津に向かうことが多いのだ。

 実は、このルートに密かな楽しみがある。美味しいラーメンが食べられるからだ。昼ごろラーメン店に着くよう時間を調整しながら車を走らせる。行列が出来る店で、最低でも40分くらい並ばなければならないので、この時間も折り込み済みである。行列しても食べる価値があるかと聞かれれば、自信を持ってイエスと応えるだろう。

 店の名前は「俺のラーメン あっぱれ屋」。京都府城陽市の国道307号線沿いにある。奈良方面から宇治田原や大津、信楽などに向かう交通量の多い道路だが、片側1車線の狭い道路である。今でこそガソリンスタンドやコンビニなどが建っているが、以前は山の中の道だった。

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 注意していないと通り過ぎてしまうような小さな店である。そこにラーメン店があるのは知っていたが、車を運転している私はいつも横目でチラッと見るだけだった。昨年秋ごろだったか、女房が「いつも行列になっているのよ」と言うので、50分くらい並んで食べてみた。

 長く待たされたのでご機嫌斜めだったが、ひと口すすって機嫌が治った。なるほど行列が出来るはずである。実に美味しい。麺は自家製で、少し太くて平たい。たっぷりスープが入っている訳ではなく、つけ麺にも似ている。中華の焼き豚ではなく、胡椒がしっかり利いたハムのようなものが入っていている。

 味は見た目よりもさっぱりしていて、コクもある。麺には腰があり、独特の味わいがある。うまく表現できないが、強いて言えば「ラーメンとつけ麺とパスタの三つを足して3で割った」ようなラーメンである。辺ぴな場所にある店なので、わざわざ行くのは大変だが、ついでがあれば言ってみる価値はあると思う。

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 開店して3年ほどの新しい店だ。オンリーワンの味にこだわるラーメンはネットを通じてたちまち有名になったらしい。日曜と祭日が定休日で、11時半ごろ開店、2時ごろには店を閉める。自家製だから多くの麺が作れず、しかも夫婦だけで営業しているため、営業時間が限られるのだろう。

 その夫婦だが、ご主人は丸刈りで、一見コワイお兄さんの風貌である。方や奥さんは、源氏絵巻から飛び出してきたような雅な雰囲気のある女性で、夫婦のアンバランスが微笑ましい。礼儀正しく、物静かな応対にも好感が持てる。ラーメン店にしてはすこぶる清潔なのもいい。

 各地のラーメンを食べ歩き、味にはちょっとうるさい私が自信を持って推奨できる・・・。

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駆け足で秋の足音が・・・

 夏の終わりと、秋の始まりが交錯する今頃の季節、ふと、一抹の寂しさに襲われるのはなぜだろうか。

 ここ標高800mの生石高原には、すっかり秋の気配が漂っている。草原すれすれに、空気を切り裂くように飛んでいたツバメの数がめっきり減ったように思う。もう、南の島に飛び立ったのだろうか。

 ツバメに代わってトンボが群れをなして飛んでいる。草原を歩いていると、トンボとぶつかりそうになる。思わず童謡「赤とんぼ」を口ずさむ。なぜか胸に迫るものがある。

       夕焼小焼の、赤とんぼ
                負われて見たのは、いつの日か・・・

 空に目を向けると、牛乳のような色をした入道雲が湧き上がっている。少し目を転じれば、刷毛で掃いたような秋の雲がある。もうこんな季節になったのか・・・。季節の移ろいの早さに、焦燥感が胸を締め付ける。

 生石高原は、花の宝庫である。カワラナデシコは例年にも増して、花の数が多いように思う。まさか、ナデシコジャパンの五輪大活躍を祝っている訳ではあるまいが・・・。花はぼちぼち終わりに近い。

 秋の七草オミナエシが咲き出している。ススキの間に黄色い花が風に揺れている。「女郎花」とも書き、女性の美しさを表す花だという。万葉集にも多く詠まれているらしいが、一首も知らない。

 北アルプスなどに群生するクルマユリは、生石高原でもたくさん見られる。緑一色の草原に鮮やかな彩りを添えてる。どこか毒のある色合いだが、それだけに刺激的でもある。

 お盆が過ぎると、わが山小屋のウッドデッキには大挙ヤマガラがやって来るようになった。餌台にヒマワリの種を置こうとすると、指をこじ開けるようにしてついばむのだ。冬に備えてどこかに隠しているのだろうか・・・。餌代も馬鹿にならないが、その可愛さには代えられない。

 このところ、早朝と午後、必ずと言っていいほど雷鳴が聞こえてくる。これも季節の変わり目の特徴だろうか。今朝ウッドデッキに出ると、紀淡海峡に虹がかかっていた。珍しいことだ。

 秋は駆け足でやって来るだろう・・・。

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新しい登山靴・・・

 8月6日のブログ「槍ケ岳・・・④」の最後に、「(下山は)カニのように歩き、女房には2時間も遅れてしまった」と書いた。下山中、右足の小指が少し痛み、これをかばって歩いたため、若い頃に傷めた左膝の古傷が痛み出したのだ。痛みといっても、温泉に入って治るくらいだから、大したことはなかったのだが・・・。

 実は、ずっと以前から右足の小指が靴に当たり、少し違和感を感じていた。しかし3日、4日歩き通しても、それほどの痛みはなかった。この日は、槍ケ岳から大喰岳をピストンした後、槍平を新穂高まで一気に下ったが、それが無理だったのだろうか。普通8時間くらいのコースタイムだが、10時間近くもかかったのだ。

 ともかく、女房に2時間も遅れるというのは大失態である。あちこちの山に連れて行ってくれた愛着のある靴だが、もはやこの靴を履き続ける気にはならない。いったん頭にこびりついた靴への不審感は、日が経つにつれて大きくなるばかりである。

 山歩きが楽しいかどうかは靴次第だ。あんな失態はもうご免だし、痛みを我慢するような登山もしたくない。そう長く山登りを続けられる年でもないが、この際、、新しい靴を買うことにした。

 お盆で関西に戻った際、何軒もの専門店に足を運び、様々な靴をはいてみた。帰りに立ち寄った和歌山の店で、やっとしっくりくる靴が見つかり、買い求めた。日本人の足型に即して作られたイタリア製で、欧米メーカーには珍しい「3E+」という幅広の靴である。

 私は道具に凝るタイプで、ゴルフも釣りも道具に凝りに凝った。登山靴も例外ではなく、山歩きを始めて20数年になるが、何足も履き替えてきた。その度に、女房からは色々と嫌味を言われ続けてきたのだが・・・。

 嫌味を言うだけあって、女房は20数年前に買った靴を今だに履き続けている。東北の山で底が剥がれてしまった靴の代わりに、また年代物の靴を引っ張り出して履いているのだが、余程足に合っているのだろう。いつも急坂を走って下りているが、痛くなったのは一度もないと言うから恐れ入る。

 足が痛くなる10万円の靴より、足に合った1万円の靴の方がいいに決まっている。しかし、道具にこだわる自身の経験から言えば、高価な物や道具はそれだけのことはある。安物は所詮安物なのだ。第一長持ちする。しかし女房の年代物の靴見ていると、そんな信念も少し揺らぐのだが。

 新しい靴を履き、近くの山で慣らし運転をする日々である。靴の調子は申し分ない。9月には北アルプスに行くことにしているが、待ち遠しくて仕方がない。新しい靴が、足になじんでくれればいいのだが・・・。

     ↓ 買い替えた新しい靴
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     ↓ 女房がしつこく履き続けている靴
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お盆は子供や孫とともに・・・

 お盆は大津市の自宅で過ごし、1週間ぶりに紀伊山地の山小屋に帰ってきた。子供や孫が帰省し、にぎやかな日々だったが、今こうして山小屋の居間に落ち着くと、やれやれという気分である。

 娘二人は、女房の実家と私の郷里の墓参りに同行してくれた。息子夫婦と孫は都合で墓参りには来なかったが、大津の自宅に一泊してくれたので、何はともあれ子供3人全員とお盆を過ごせたことになる。

 お盆は、亡くなった親族の霊を祀る行事で、お墓参りがメーンイベントだろう。もちろんそれも欠かせないが、どちらかと言えば、子供が親に顔を見せる行事の一つになっている。

 振り返ると、昔と今ではそんな帰省の様子にも微妙な変化を感じる。

 私の場合、忙しい勤務の合間を縫うように帰省するのは、それが子供の義務のようなものと思っていたからだ。しかし近年のテレビのインタビューなんかでは、「親元でのんびりしてきました」「田舎でリフレッシュ出来ました」などという声をよく聞く。

 しかし私の親などは帰省すると、「おう、帰ったか」という挨拶が返って来るだけ。お袋の料理が食卓に並んでいて有難かったが、それだけである。お土産を渡し、ひたすら近況を語って聞かせて一日が終わるのである。何日も休みが取れないので、後ろ髪が引かれるように帰途につき、リフレッシュするどころではなかった。

 今では主客が転倒している。子供は親のサービスを期待し、親は子供たちを接待するのに知恵を絞る。わが家も恥ずかしながら同じである。

 息子夫婦と孫には、比叡山の麓にある明智光秀の菩提寺・西教寺を案内した。孫に静寂の気持ちよさは分かるまいが、大きくなったらあの夏の日を思い出してくれるかもしれない。この後は、地味なお寺参りの罪滅ぼしで、孫を甲賀の忍者村に連れて行った。

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 娘たちは琵琶湖の外輪船ミシガンで船遊びを楽しんだ。8月は私の誕生月で、ケーキを買ってきて祝ってくれたがそれは口実で、娘が大好きな有名ケーキ店のバナナケーキが食べたかっただけなのだろう。

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 このお盆、子供と孫に囲まれて過ごすことが出来た。末の娘は吉本興業の下手な芸人よりも話芸が達者で、しばしば笑い転げさせてくれた。しかし年を取ると、このような楽しい日々も多少疲れる。山小屋に帰ってきて居間に腰を下ろすとき、思わず「よっこらしょ」という声が出る。そして、静かな安らぎに満たされていく・・・。

 

槍ケ岳--④

 槍ケ岳の日の出は午前4時55分ごろだった。東の空がオレンジ色に染まり始めると、八ヶ岳連峰の左側に真っ赤な太陽が顔を出した。太陽はみるみる大きくなり、ご来光を拝もうと山荘の外に出てきた人たちから「オーッ」という歓声が上がった。八ヶ岳の右には、富士山が優美なシルエットを浮かび上がらせていた。

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 今日は下山の日である。上高地から槍沢を登ってきたが、帰りは反対側の槍平を経て新穂高に下る。午前6時に山荘を出発した。新穂高まで14・4キロの表示。これからは長い道のりだ。

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 槍ケ岳のすぐ隣の大喰岳(おおばみだけ、3101m)へ向かうことにした。半時間余りで登れるはずだ。

 こんな朝早く、ヘリコプターが飛来し、槍のすぐ下にある大槍ヒュッテに荷物を吊り下ろしていた。人力に頼っていた荷揚げがヘリになり、キンキンに冷えた生ビールも飲めるようになった。有難い。

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 途中の雪渓でひと休み。その向こうに三角形の常念岳が。

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 大喰岳の頂上から、槍の見納めである。その反対側には北穂高岳など急峻な峰が連なっている。

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 ここは「飛騨乗越」。日本で一番高所にある峠だ。まだ朝は早く、我らの影が長い。笠ケ岳に向かって下山する。

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 われらが下る「槍平」は高山植物の宝庫である。花に目が向くようになったのは、それほど昔のことではない。ネオン街に咲く怪しげな花に興味があった時期もあったが、今は本当に美しいと思うようになった。

     ↓ ミヤマキンポウゲ 
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     ↓ イワツメグサ
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     ↓ ヨツバシオガマ?
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     ↓ モミジカラマツ
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     ↓ チングルマ
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     ↓ ハクサンフウロ
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     ↓ ???
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     ↓ イワウメ
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     ↓ シナノキンバイ
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     ↓ ハクサンイチゲ(白い花)
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     ↓ ミヤマオダマキ
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     ↓ キヌガサソウ
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     ↓ ???
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     ↓ ???   
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 槍ケ岳の高みから滑り落ちるような槍平の斜面には、実に見事なお花畑が広がっている。

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 高山植物を楽しみながら登山道を2時間ほど下ると、ナナカマドなどの樹林帯に入る。すると、前方に焼岳と乗鞍岳が姿を現わした。

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 続いて、涸沢岳など穂高の険しい岩稜が見え始め、北アルプスらしい山岳風景を楽しませてくれる。

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 最初の計画は、新穂高との中間にある槍平小屋で泊まることにしていた。しかし槍のてっぺんに登ることが出来て気分が高揚、新穂高まで一気に下って美味しいものでも食べて祝杯を上げたかった。

 しかし、この計画変更がいけなかった。槍平小屋からの下りで左膝が痛み出した。30年ほど前の古傷だ。もっと長期、長時間の登山でも痛むことはなかったのだが・・・。カニのように歩き、女房には2時間も遅れてしまった。歩行時間は計11時間。幸い、温泉につかったらケロリと痛みが引いた。不思議な古傷である。

 たくさんの感動を与えてくれた槍ケ岳登山--。高齢で高所恐怖症の私たち夫婦が、よくもまあ頂上に立てたものだ。ただそれが、変な自信や驕りになってはいけないと思う。大自然の前では、あくまでも謙虚であらねばならない。改めて、槍ケ岳がそう教えてくれた・・・。


   冷えた生ビールで乾杯。肉は飛騨牛ですぞ!  ご褒美です。

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                      (おわり)







 




槍ケ岳--③

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 真っ青な天に突き上げる大槍の岩峰・・・。美しくもあるが、高所恐怖症の私にとって危険な匂いがする。頂上直下には、2連の梯子が垂直に近い傾斜で架けられている。予想はしていたが、それ以上の厳しさで威圧してくる。女房とは「勇気ある撤退」を約束していたので、無理をしてまで登る気はない。

 女房が大槍を見上げながら「どうするの?」と聞く。「うーん、ちょっと厳しいなあ」。それが私の正直な感想だ。「とりあえず槍の肩まで行ってみて、登るかどうか決めましょう」。しかし、女房の語気には強い決意が滲んでいる。

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 大槍の基部から頂上まで標高差100m。登りと下りは一方通行になっており、登りには梯子が4本、鎖場2か所、下りは梯子4本、鎖場6か所。こう書けばいかにも難しそうだが、高所に恐怖心のない人は難なく登って行くのだ。私には信じられないが・・・。

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 女房は「行ける所まで行きましょうよ」と登り始めた。「おい待て!裏切り者!」。私は仕方なく後に続いた。

 しかし女房は20mほど登った所の岩棚で、突っ立ったまま動かない(黄色のシャツ)。迷っているようだ。

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 しばらくすると、女房は意を決するように岩をよじ登り始めた。頭上に1本目の梯子が。

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 私も続こうとしたが、足を掛ける岩が見つからない。手がかりとなる岩は少し滑る。何とか体を引き上げたが、その上でまた立ち往生。10mほど上に達している女房が「もう少し」と声をかける。

 下に目を向けると、目もくらむ絶壁なのだ。もはやこれまで。下山することにした。女房に「頂上へはお前だけで行け。カメラを渡すので降りて来てくれ」と叫んだ。女房は「怖いから降りられへん」と言う。すると、女房のそばにいた青年がカメラを取りに降りてきてくれた。

 いったんカメラを預けたが、思い直して青年を呼び止めた。「やっぱり登るわ」。なぜ心変わりしたかわからないが、要するにヤケクソなのだ。(実はこの青年、山荘の寝室で私と隣り合わせ、あの時のお礼を言わせてもらった。まさに奇遇である)

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 下の写真を見れば、私がいかに混乱の中で写真を撮っているか、分かっていただけるだろう。

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 へっぴり腰で女房が最初の梯子を登る。

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 女房が頂上直下の梯子に到達した。私も後を追う。

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 頂上に達する梯子が下の写真の左に写っている。2連で計48段。私はこの梯子を登り切って3180mの頂上に這いつくばった。すると、たくさんの人から盛大な拍手が湧き起こった。思わぬプレゼントに、万感の思いが込み上げる。高所恐怖症の分際が、ついにやったのだ。先に着いていた女房が涙を浮かべて笑っている。

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 祠に手を合わせる。頂上は20畳くらいの広さで、意外と広い。私は何とか立って歩くことが出来たが、女房は座ったまま這いずり回り、膝を震わせていた。私に続いて登って来た若い女性は「わたし観覧車に乗れないのに、ここへ来れた。何という感動!」と、今にも泣き出さんばかりである。

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 槍ケ岳山荘の主人によると、この日は年に何回かあるかないかの晴天だという。何という幸運なのだろう。頂上からは、雄大な山岳パノラマが広がっていた。これまでに登った山、これから登りたい山、遠くに富士山、南アルプス、八ヶ岳連峰、白山・・・。頂上には半時間ほど滞在し、360度の展望を目に焼き付けた。

     ↓ 優美な笠ケ岳
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     ↓ 双六岳の背後に黒部五郎岳
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     ↓ 右手に薬師岳
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     ↓ 槍に向かって西鎌尾根が続いている。この尾根を登ってもう一度槍に来たい。頂上はもう御免。
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     ↓ 穂高の峰々
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     ↓ 常念岳
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 さあ下山だ。今度は私が先行し、降りて来る女房を待ち受ける。下山の方が怖いという人が多いが、私ははるかに登る方が怖かった。下を見ず、次の岩に足を掛けることに集中した。

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 槍の肩に無事降りてきた。「念願が叶って良かったな」。夫婦の美しい握手である・・・。ヘ、ヘ、ヘッ。  

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 まずは当然これ。大槍にカンパーイ。    

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 槍ケ岳の頂上に立ち、6時間余りが経った。私たちは夕食を終え、山荘の外に出て沈み行く太陽を眺めた。夕日に照らされた大槍の姿は息を呑むほど美しかった。

 頂上に立てた喜びが湧いてくる。しかし心のどこかに、何か引っ掛かるものがある。なぜ、あんなに無理をして登ったのだろう。頂上に立ったからといって、それが何なんだろう。そんなことを言えば身も蓋もないし、登山を愚弄することにもなるけれど、どうも素直になれない別の自分がいる。

 あれは催眠商法に似ているのではないか。催眠状態にさせられた客は正常な判断が出来なくなり、高価な商品を買わされる。私も「槍」という特別な雰囲気に呑み込まれ、我を忘れて登ったのかもしれない。それが何となく恥かしいのだ。

 そんな風に思うのは、ヘソが曲がっているからか、頂上に立てた余裕からか・・・。

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                         (続く)

 

槍ケ岳--②

 上高地と槍ケ岳の中間にある「槍沢ロッヂ」で二日目の朝を迎えた。外に出ると、明るくなり始めた空には雲ひとつなく、絶好の日和である。樹林の隙間から、朝日を受けた槍ケ岳の穂先がオレンジ色に染まっていた。

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 午前5時前、弁当を持って出発。石がゴロゴロした道を登る。

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 白い花がまぶしい。ナデシコの一種だろうか。(後で図鑑を調べたら、ナデシコ科のセンジュガンビと分かった)。白いシャクナゲも美しい。

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 40分ほど歩くと、一気に前方が開けた。ババ平キャンプ場だ。

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 しばらく雪渓の端っこを歩く。

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 振り返ると、V字の槍沢がなだらかに下っている。

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 槍沢大曲がり。大きく迂回しながら登る。

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 歩き始めて1時間半。そろそろお腹が減ってきた。美しい山岳風景を眺めながら、ロッヂの弁当を広げた。

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 腹ごしらえをして再び歩き始める。前方にどっしりとしたツバメ岩が鎮座している。

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 標高は2000mを超え、色々な高山植物が見られるようになった。この花はシナノキンバイ。

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 槍を目指す人、槍から降りて来る人が交錯する時間帯になった。

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 天狗原の分岐。こちらに進むと天狗池があり、逆さ槍を映し出す。絶景ポイントだが、先を急ぐのでまたの機会に。

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 この一団は、下山する中国人民の皆さん。中年の男性がわれら夫婦二人の写真を撮ってやろうと言う。お言葉に甘えてハイ、ポーズ。謝、謝。

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 雪渓を横切る。殺生ヒュッテの従業員がスコップでステップを切ってくれていた。安全登山の裏方だ。

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 出発して3時間、ついに槍ケ岳のてっぺんが姿を見せた。

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 登っても登っても槍には容易に近づけない。あぁ、もどかしい。

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 槍ケ岳を開山した念仏僧播隆は、この岩屋で52日間も念仏を唱えていたという。

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 必死で登ってきたので気付かなかったが、振り返ると百名山常念岳、富士山と南アルプスの山並みが見えた。

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 標高は3000mに近付いている。空気の薄さを実感し、すぐに息切れする。後方には殺生ヒュッテ。

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 あと400mの表示。しかし、普通の400mではない。胸突き八丁の急斜面をジグザグに登るが、槍の基部に建つ槍ケ岳山荘まではなお遠い。

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 あと200m。槍を見上げると、梯子が垂直に立っている。登山者が岩にしがみついている。このままそっと下山したい気分である。

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 さぁ、あともう少し。

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 やっと槍ケ岳山荘に到着した。早朝の出発から6時間余りかかった。

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 標高3180m。日本で5番目に高い槍ケ岳の大槍が私たちを見下ろしている。目もくらむような峻険さだ。自宅の屋根にも登れない高所恐怖症の私たちにとって、その頂は途方もない高みにある。果たして、天空の人となれるのだろうか・・・。

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                                       (続く)








槍ケ岳--①

 年齢を重ねるごとに高所恐怖症がひどくなるわれら夫婦だが、北アルプスに聳える絶壁の槍ケ岳(3180m)に挑むことにした。朝6時20分、奥飛騨・平湯温泉の高山市営あかんだな駐車場に車を置き、シャトルバスで上高地に向かった。安房トンネル、釜トンネルを抜けると、そこは涼やかな風が吹き渡る登山基地の上高地である。

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 登山届をポストに入れ、いざ出発だ。

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 しばらく歩くと上高地の象徴・河童橋。橋の上から梓川上流を眺める。

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 早朝の木漏れ日の中を歩く。平坦な道が続く。

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 小一時間歩くと、穂高神社奥宮のある明神だ。1日目は時間の余裕があるので、寄ってみることにした。

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 古くから登山者に愛されてきた明神の嘉門次小屋。女房は独身時代、登山仲間と泊まったことがあると言い、盛んに懐かしがっていた。

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 明神池。それほどの神秘性は感じない。

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 梓川のせせらぎを聞き、左手に明神岳(2931m)を見ながら歩くが、頂上はあいにく雲に隠れていた。

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 明神から1時間ほど歩くと徳沢だ。井上靖の名作「氷壁」にも登場する徳沢園のたたずまいは、山の宿の雰囲気を漂わせていた。

 ここの名物はソフトクリーム。女房の姿が見えないと思ったら、案の定・・・。

 実は、上高地に入る前夜、平湯の旅館で酒を飲み過ぎ、ひどい二日酔いだった。旅館のトイレで出す物はすべて出し尽くし、歩いている途中もずっと「ゲーッ、ゲーッ」。登山の前夜は眠りたいので酒量が増える。去年の薬師岳登山もひどい二日酔いで急登の太郎坂を登った。慣れていると言えば、慣れているのだが・・・。女房は「足を引っ張らないで」と怒っている。

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 槍ケ岳、涸沢への分かれ道の横尾に到着。歩き始めて4時間ほどになる。サンダル履きでここまで来る観光客も少なくない。

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 横尾を過ぎると山道だ。ようやく前夜の酒が抜け、歩行にも調子が出てきた。

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 女房は先を歩いているが、私は立ち止まって小休止。ふと見上げると、尖がった山が見えた。槍ケ岳の穂先である。ピンポイントでしか見えない位置で立ち止まるなんて、槍との因縁のようなものを感じた。果たして、頂上に立てるのだろうか。

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 登山者の多くが休憩する「一の俣」。ここで初めて食べ物を胃袋に落とす。

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 槍沢の水は美しい。エメラルドグリーンなんてチャラチャラした言葉は使いたくない。

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 槍沢のせせらぎ、野鳥のさえずり・・・。気持ちのいい道を歩き、至福の時間を楽しむ。

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 今夜泊まるのは「槍沢ロッヂ」。急な坂を登ると、「もうすぐ」の看板があった。登山ではいつも「もうすぐ」に騙される。それから結構距離があるものだ。「今出ました」という蕎麦屋の出前に似ている。

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 午後1時45分、「槍沢ロッヂ」に到着。おおむね予定通りだ。

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 宿泊手続きを終えたら、もちろんこれ。二日酔いの苦しみを忘れてグビッ。1杯900円。

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 ロッヂから槍の穂先が見えた。明日はあの奇跡のような岩峰を目指すのだ。

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 夕食はこれ。もちろん生ビールも。山で食べる食事は何でも美味しい。

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 明日の朝は早い。夜8時過ぎには眠りにつきたい。おやすみなさい・・・。

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                                     (続く)


  
 
 



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