森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

能「安達原」に女の心の闇を見る

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 ひと月ほど前、散歩中に大津市伝統芸能会館の前を通りかかると、能公演のポスターが貼られていた。能面を公募し、その面を掛けて能を演じるという企画だった。興味があったので、会館に入ってチケットを買った。すでに良い席は埋まっていたが、脇の最前列にぽつんと1席だけ空きがあり、ラッキーだった。

 伝統芸能など似合わない私だが、能には多少の縁がある。実は、重要無形文化財保持者の観世流シテ方(故人)と知己を得たことがあり、いつも能公演のチケットを女房の分と合わせ二枚づつ送ってくれていた。公演の度に女房と一緒に出かけ、これがきっかけで他の公演も観に行った。

 最初は退屈することもあったが、鑑賞を重ね、多少の勉強もしたので面白さが分かってきた。能の多くは死者の世界を演じるもので、夢幻能と呼ばれる。室町時代に人気のあった平家物語や今昔物語から引いた演題も多く、主人公には、神、亡霊、狂女、天狗、龍神などが登場する。能には人間の業のようなものが凝縮されており、味わい深い。

 先日の公演当日は、早めに伝統芸能会館に行き、全国から応募された能面を鑑賞した。翁、般若、小面(こおもて)、鬼など様々な面が展示されており、作品を批評するような素養はないが、その出来栄えに感心するばかりだった。余談だが、面を彫るのは「打つ」と言い、面を付けるのは「掛ける」。どうでもよいが、米は「研ぐ」である。

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 開演の時間が来た。水を打ったように静かな会場に、空気を切り裂くような笛が吹かれ、続いて、「イヤー」という裂帛(れっぱく)の掛け声とともに大鼓が打たれ、乾いた音を響かせた。会場は一気に緊張に包まれ、この日の演目「安達原」が始まった。シテ(主人公)を演じるのは、観世流能楽師吉浪壽晃だ。

 能舞台には、那智を出て全国を行脚する阿闍梨とその従者が登場する。陸奥の安達ケ原で日が暮れ、あばら家の一軒屋で宿を乞うた。中には中年の女がおり、一度は断ったが、気の毒に思い招き入れた。女は乞われるままに糸車を回して見せながら、人の世の虚しさを嘆いた。

 夜は寒くなるので、女は山へ柴を取りに出かけたが、その際、絶対に寝屋を見てはいけないと念を押した。しかし従者の一人が
阿闍梨の目を盗んで寝屋の中を見てしまった。中には人間の死体や白骨が山積みされていた。見てはいけないという約束を破られた女は鬼となって舞台に現れる。

 シテは、公募で優秀作品となった般若の面を掛け、怒りをあらわに舞う。阿闍梨と従者は数珠をすり合わせ、祈りによって女の怒りを鎮めようとした。恐ろしい般若の面は、次第に悲しげな表情に変わっていく。そして追い詰められた女は舞台から姿を消した。会場には、言いようのない切なさだけが残った・・・。

 能は、約6m四方の板張りの舞台と、左手の橋掛かりだけで演じられる。それだけの空間に、幽玄の世界を作り出した室町時代の観阿弥、世阿弥親子は天才と言うしかない。無駄をそぎ落とした能のシンプルさこそ、日本の美そのものである。

 死体で埋まる寝屋は、現世に翻弄され、苦悩した女の心の闇だったと思う。能を鑑賞しての帰り道、般若の悲しげな表情が蘇り、切なさを引きずりながら歩いた・・・。
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   09:21 | Comment:2 | Trackback:0 | Top
 
 
Comment
 
 イレグイ号 [URL] #-
僕も興味があって、去年の夏に和歌山市の日前宮で開催されている薪能を見に行きましたが、悲しいかな、さっぱりわかりませんでした。
多分、神話の時代を引きずった、悪霊や呪い、霊魂みたいなものが当然実在するのだと思われていたころの物語だと思うと、自分たち日本人の心の形成を知るうえでは絶対に理解しなければならないと思うのですが、そのためにはあまりにも知性がなさすぎる自分に歯がゆい思いをしてしまいます・・。
 2016.02.12 (金) 21:44 [Edit]
  [URL] #-
     イレグイ号さんへ

 おはようございます。
確かに、能は難しいですね。
シテの語りや、謡の内容が分からないからでしょうね。
私は、能のストーリーを頭に入れて鑑賞していますが、それでも難しいです。
和歌山ゆかりの「道成寺」は、男に捨てられた女が蛇になって呪うおなじみの物語ですが、これは分かりやすくて味わいがあります。
私の好きな演目です。
能を鑑賞しながら、世阿弥の才能のすごさを感じています。
 2016.02.16 (火) 06:56 [Edit]






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