捨て犬「シロ」の行方は・・・

 私たちが暮らすここ生石高原から1匹の犬が姿を消した。わが家の近くで独り暮らしをしているPさんの飼い犬である。メスの雑種で、白い毛のため皆から「シロ」と呼ばれていた。細身の体は筋肉で引き締まり、足が長い。

 先日、Pさんの山小屋前の草むらにシロが横たわっているのを、仲間の一人が見つけた。彼の話によると、シロは頭を噛みつかれて出血し、虫の息だったという。翌朝連絡を受けた私たち夫婦は、他の2人とともに様子を見に行った。

 草むらを探したが、シロの姿はなかった。発見した彼は「あんな様子では、生きているはずがない」と言って首をかしげた。私たちは「死に場所を求めてどこかへ姿を隠したのではないか」と言い合った。シロをかわいがっていた女房は、泣いていた。

 シロがここにやって来たのは、7、8年前だった。痩せた体でとぼとぼと歩いていたのを私も覚えている。不憫に思ったPさんは、シロを飼うことにした。その当時、Pさんの家には、大型犬と小型犬の2匹がいた。

 シロはいつも人間に脅えていた。近づくと、すぐ後ずさりし、大きな声でほえた。Pさん以外、人になつくことはなかった。きっと、元の飼い主から虐待を受けていたに違いない。シロは体型からみて猟犬のようだった。猟犬として役に立たなくなると、奥深い山中に捨て去る不届き者がいると聞いたことがある。

 4、5年前、今度は黒い犬が高原にやって来た。これも捨て犬らしく、ひどく汚れていた。心優しいPさんは、この黒い犬を「クロ」と名付け、手元に置いた。雑種のメスで、シロよりやや小柄だが、イノシシを追い回し、噛み付いて離さない強い犬だった。

 シロとクロはよく喧嘩をし、シロはいつも負け、噛まれて生傷が絶えなかった。この春、クロは子犬4匹を産んだ。3匹はPさんの知り合いに引き取られ、残った1匹をクロがお乳を飲ませて育てていた。コロコロしていて可愛かった。

 子供を守ろうとする母性本能からか、クロはシロに対し、これまで以上に攻撃的になった。シロはPさんの家から追い出され、近くの彫刻家の家で餌をもらうようになった。最近私は、とぼとぼ歩いているシロの姿を見た。右目にひどい傷を負っていた。名前を呼ぶと、卑屈な目で一瞥して通り過ぎた。

 警戒心の強いシロだが、女房には少し気を許すところがあった。よくわが家に遊びに来て、女房からパンの切れ端やチーズをもらっていたからだろう。そんな間柄だったが、道で出会うとほえた。それほど心の傷が深かったのだろう。

 あれから3日経つが、シロの姿を見た人はいない。どこかで、人知れず息絶えているのだろうか。クロから迫害を受け、深い傷を負っても、一度捨てられたことのあるシロには、もはや行く所がなかったのだろう。哀れというしかない・・・。


              *          *           *

 このブログをアップした翌日、シロが死んでいるのが見つかった。Pさんの山小屋からそう遠くない場所だった。仲間たちによって手厚く葬られた。人間に怯え、なつかない犬だったが、そのこと自体が悲しい。合掌。

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コメント

猟犬として生きたシロ

人間に対して言いたいとは山ほどあるが、敢えて黙って死を迎え入れる

今の日本人が失った「武士道」を示したのかもしれませんね?

    タマモクロスさんへ

 独立されて、儲かりまっか?
それにしても、勇気がありますね。
私など、失敗したらどうしようと思い、踏み切れません。
商才はまったくありません。
 日本人が失った「武士道」・・・。
私も今、三島由紀夫の「葉隠入門」を読んでいます。
「武士道というは、死ぬことと見つけたり」
葉隠は現代に通じる人生論だと思います。
 
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