名峰・白山を登る・・・(後編)

 白山の室堂から最高峰の御前峰(2702m)に向かって歩き出した。朝方に降っていた雨は止んではいたものの、依然としてガスが立ち込めていて見通しが悪い。山頂直下には七つの池があり、これを回る「お池めぐり」は白山登山のハイライトだが、この視界不良では遭難の危険があり、無理かもしれない。

 山の斜面には今が盛りのお花畑が広がっており、まさに百花繚乱だ。さすが日本有数の花の山だ。高山植物は、氷河期という厳しい環境を生き延びてきた草木であり、私も健気に咲く美しい花に魅了される。氷河期とはどのような環境だったか知らないが、私などはマンモスが雪原をのし歩く光景しか思い浮かばない。

 御前峰への登山道沿いでは、黄色い花が咲き乱れていた。キンバイかキンポウゲか・・・。花のベテランならすぐに見分けがつくそうだが、われら素人が知ったかぶりを言うのは控えよう。いずれにしても、夏山を代表する花だ。

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 次は、ピンクのコイワカガミと、その背後に咲く黒紫色のクロユリだ。北アルプスなどでもよく見かける花だが、どちらも白山の群落はスケールが大きい。クロユリは石川県の「郷土の花」だそうだ。ユリと言えば清楚な純白だが、クロユリはとても可憐とは言い難く、私などは隠微な匂いを嗅ぎ取るのだ。

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 若い女性がカメラを構えていた。その先にクルマユリが咲いていた。鮮やかなオレンジ色で、その下に薄紫色のハクサンフウロが二輪、三輪、ひっそりと咲いていた。

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 登山道の足元で、イワギキョウとイワツメグサが咲いていた。肩で息をしながら急な山を登る時、岩と岩の間に咲くこの二つの花は、一幅の清涼剤だ。

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 ハイマツの松ぼっくりは、実に鮮やかなピンク色だった。松ぼっくりはライチョウなどの餌になるが、出会った登山者によると、白山にはライチョウはいないのだという。何年か前に目撃情報があったが、あれは北アルプスから出張してきたものらしい。北アルプスなどではしばしば見かけるが、ハイマツが繁る白山にはなぜいないのだろう。

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 山頂まで500mの高天ケ原という場所まで登ってきた。依然としてガスがかかっている。それから10分ほど歩くと、上空が明るくなってきた。よく見ると頂上らしき場所に何人かの人影が見えた。

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 標高2702m、御前峰の山頂に着いた。途中で青空が見えたので喜んだが、またガスに覆われていた。1300年前、この小さな社があった場所には十一面観音が安置されていたが、今は白山神社の奥宮になっている。観音菩薩がのけ者にされてしまったようで、複雑な気分だ。

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 頂上のすぐ近くの岩場で、未練がましくガスが晴れるのを待った。ガスがかかっていると、登山道が分からなくなり、ガイドブックによるとお池巡りは厳禁である。半時間ほど待っただろうか、一気に視界が開け、直下にエメラルドグリーンの池が二つ見えた。白山の神のご利益か、観音菩薩の慈悲か・・・。思ってもみなかった幸運である。

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 女房は「これで行かなければ一生の後悔。さぁ、行きましょう」と言って急なガレ場に踏み出して行った。結構急な斜面で、岩がゴロゴロしている上、砂礫の所もあって滑りやすい。普段は何事にも私の方が積極的だが、女房は人が変わったように鼻息が荒かった。

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 下の写真の「油ケ池」がお池巡りのスタートだ。ガスが湧けば、このような場所では方向感覚を失いそうだ。踏み跡がはっきりしない場所もあり、道に迷うのは必至。岩を越え、雪渓を渡り、お池を巡るこのコースはゆっくり歩いて1時間半ほど。下から2枚目の写真は「千蛇ケ池」で、雪に覆われたこの池の下に千匹のヘビが封じ込められているという。

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 お池巡りのコースはすり鉢状の底を歩く感じで、お花畑が広がっていた。中でもハクサンコザクラは可愛い花で、女房のお気に入りだ。その名前から白山の花だと思っていたが、研究用に持ち込まれたらしい。少しがっかりだ。

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 下の写真はゴゼンタチバナ。御前は白山の御前峰からとったとされている。その下はチングルマの群生地。白い花に淡いピンクが混じるのはハクサンシャクナゲだ。

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 白山登山のハイライトを終え、室堂から弥陀ケ原を歩いて下山にかかった。途中、巨岩がごろんと横たわる「黒ぼこ岩」を写真に撮り、その下の「延命水」では湧き水を柄杓で2杯飲んだ。私の長生きを嫌がる女房は「やめて」と言ったが、これでさぞや長生きすると思う。

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 このあたりから再び雨が降り出し、滑りやすい岩の登山道を慎重に下った。別当出合に下山したのは午後5時を過ぎており、この日だけで10時間近く歩いたことになる。最後の方は膝が痛くなり、サポーターを巻いて何とかしのいだ。白山を甘く見ていたことを反省した。楽に登れる山など一つもないし、ましてここは日本百名山である。

 以前から各地の十一面観音を巡拝している私にとって、今回の登山は聖地巡礼のようなものだった。しかし、白山はその山自体が御神体であり、6000体もあったとされる石仏は打ち捨てられ、ひとかけらもなかった。もはや仏教の気配は徹底的に消されていたのだ。

 明治新政府が発した廃仏毀釈によるものだが、神道による国家統合を進める明治政府に、廃仏という口実を与えたのは仏教の堕落があったのかもしれない。しかしそれにしても、このような文化破壊は何と嘆かわしいことか。イスラム過激派ISが、シリアのパルミナ遺跡を破壊したことと重ね合わせ、暗澹たる気分だった。

 御前峰のお堂に鎮座していた本尊の十一面観音像などの仏像は、廃仏毀釈の難を逃れ、麓の林西寺に移された。白山を追われた観音菩薩などの8体は「下山仏」として公開されており、その翌日、拝観した。

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 登山の楽しみは、下山後の温泉である。今回泊まるのは「中宮温泉」だ。以前、白山スーパー林道(現在はホワイトロードに改名)を走った時から目をつけていた温泉である。石川県側の料金所を出てすぐ左折し、300mほど走ると温泉がある。源泉かけ流しで、泉質の良さには定評がある。

 旅館に到着すると、夕食の時間を遅らせてもらい、風呂に駆け込んだ。私のか弱い足はボロボロに疲れており、湯につけるとジンジンと痺れた。名湯の誉れ高い湯によって疲れは癒され、山菜料理をつつきながらビールを流し込んだ。もう、これがたまらないのだ・・・。

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コメント

やっぱり

ブログを拝見してますます白山に憧れてしまいました。断念ながら関西には白山のような山は無いですからなんとしても白山登山は実現したいです。今度お会いできた時詳しく聞かせて下さいね。

ガスが晴れて姿を見せたエメラルドグリーンの池は素晴らしく美しいですね。
前編も読みましたが、いやぁ~お二人とも健脚!
私などボランティアで4~5時間立っているだけですっかり疲れました。
歩くのも1~2時間がいいところでしょう。
夫は四国88箇所巡りがしたいと言っていますが、私は交通機関を使って、行く先々で待っているか、パスするか。
・・・なんて、こんなことでは畑など出来ませんね。
活動的なひまじんさんご夫婦のイベントをブログで楽しませてもらっています。

待ってました❗後編

毎回、お上手な文面に感心します!白山そのもの✌ 別当出会い~中飯場の間でヨツバヒヨドリの花に乱舞するアサギマダラが見られる場所がありますが今年は一匹も見られませんでした。いつも、沢山飛んでるんですよー

    おおざっぱ さんへ

 もう少し天気が良かった、もっともっと白山の魅力を伝えることが出来たと思います。
まぁ、それでもお池めぐりもでき、高山植物にもたくさん出会い、良かったです。
蕎麦打ちの日にお教えしますよ。

    May さんへ

 いや、決して健脚ではありません。
本に書いているようなコースタイムではとても歩けません。
 ご主人が四国巡礼をしたいとのこ。いいですね。
私は少しかじったことがありますが、巡礼の仕方は色々ありますよ。
ご主人が歩いて、Mayさんが旅館で昼寝して待つのというのが一番でしょうね。
ただし、1200キロを巡るとなると、費用も結構かかりますよね。
だから私は虫食いのような巡礼しか出来ていません。
いつの日か、満願成就して下さい。

    ヨッシーさんへ

 二回続けてのコメント有難うございます。
実は私、南竜山荘とその手前で計2回、アサギマダラを見ました。
白山はアサギマダラで有名と聞いていたので、いつもキョロキョロしながら歩いていました。
私のブログをお読みになられたか分かりませんが、アサギマダラのことも書いています。
近々、レポートしたいと思っています。

夫も四国巡礼は一気にできないので、何回かに分けて、と言っています。
この秋に帰国するので一部だけでも行ってみたいそうです。
希望は、距離の近い所は徒歩で、遠い所は交通機関を使ってだそうです。

May さんへ

 旅行社がバスツアーを色々と企画していますので、ご利用になればいいと思います。
 秋に帰国されるとのこと、それはそれは・・・。
ご希望の田舎暮らしもぜひ実現して下さい。

度々失礼致します。
5~6年先の夫の定年後に、日本に家を探そうと思っているのです。
色々と調べましたら、西は明石あたり、南は和歌山の方に行くと、小さな庭付きの家が予算内で??(まだ予算は無いですが、笑)
どこが住みやすいかなぁ、と考えています。
出来れば車を持たずに・・と思うとあまり田舎にも引っ込めずなかなか難しいです。

    Mayさんへ

 例えば和歌山なら、家付き果樹園付きで500万円も出せばお釣りがくるでしょう。
ただ、田舎暮らしは車が必需品ですよね。
難しいところですが、地域によってはコミュニティーバスが走っています。
根気良く探せば、きっといい物件が見つかると思います。
定年後、楽しみですね。
そのような暮らしは想像以上の楽しみが待っていると思います。
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