森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

槍ケ岳--③

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 真っ青な天に突き上げる大槍の岩峰・・・。美しくもあるが、高所恐怖症の私にとって危険な匂いがする。頂上直下には、2連の梯子が垂直に近い傾斜で架けられている。予想はしていたが、それ以上の厳しさで威圧してくる。女房とは「勇気ある撤退」を約束していたので、無理をしてまで登る気はない。

 女房が大槍を見上げながら「どうするの?」と聞く。「うーん、ちょっと厳しいなあ」。それが私の正直な感想だ。「とりあえず槍の肩まで行ってみて、登るかどうか決めましょう」。しかし、女房の語気には強い決意が滲んでいる。

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 大槍の基部から頂上まで標高差100m。登りと下りは一方通行になっており、登りには梯子が4本、鎖場2か所、下りは梯子4本、鎖場6か所。こう書けばいかにも難しそうだが、高所に恐怖心のない人は難なく登って行くのだ。私には信じられないが・・・。

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 女房は「行ける所まで行きましょうよ」と登り始めた。「おい待て!裏切り者!」。私は仕方なく後に続いた。

 しかし女房は20mほど登った所の岩棚で、突っ立ったまま動かない(黄色のシャツ)。迷っているようだ。

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 しばらくすると、女房は意を決するように岩をよじ登り始めた。頭上に1本目の梯子が。

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 私も続こうとしたが、足を掛ける岩が見つからない。手がかりとなる岩は少し滑る。何とか体を引き上げたが、その上でまた立ち往生。10mほど上に達している女房が「もう少し」と声をかける。

 下に目を向けると、目もくらむ絶壁なのだ。もはやこれまで。下山することにした。女房に「頂上へはお前だけで行け。カメラを渡すので降りて来てくれ」と叫んだ。女房は「怖いから降りられへん」と言う。すると、女房のそばにいた青年がカメラを取りに降りてきてくれた。

 いったんカメラを預けたが、思い直して青年を呼び止めた。「やっぱり登るわ」。なぜ心変わりしたかわからないが、要するにヤケクソなのだ。(実はこの青年、山荘の寝室で私と隣り合わせ、あの時のお礼を言わせてもらった。まさに奇遇である)

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 下の写真を見れば、私がいかに混乱の中で写真を撮っているか、分かっていただけるだろう。

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 へっぴり腰で女房が最初の梯子を登る。

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 女房が頂上直下の梯子に到達した。私も後を追う。

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 頂上に達する梯子が下の写真の左に写っている。2連で計48段。私はこの梯子を登り切って3180mの頂上に這いつくばった。すると、たくさんの人から盛大な拍手が湧き起こった。思わぬプレゼントに、万感の思いが込み上げる。高所恐怖症の分際が、ついにやったのだ。先に着いていた女房が涙を浮かべて笑っている。

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 祠に手を合わせる。頂上は20畳くらいの広さで、意外と広い。私は何とか立って歩くことが出来たが、女房は座ったまま這いずり回り、膝を震わせていた。私に続いて登って来た若い女性は「わたし観覧車に乗れないのに、ここへ来れた。何という感動!」と、今にも泣き出さんばかりである。

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 槍ケ岳山荘の主人によると、この日は年に何回かあるかないかの晴天だという。何という幸運なのだろう。頂上からは、雄大な山岳パノラマが広がっていた。これまでに登った山、これから登りたい山、遠くに富士山、南アルプス、八ヶ岳連峰、白山・・・。頂上には半時間ほど滞在し、360度の展望を目に焼き付けた。

     ↓ 優美な笠ケ岳
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     ↓ 双六岳の背後に黒部五郎岳
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     ↓ 右手に薬師岳
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     ↓ 槍に向かって西鎌尾根が続いている。この尾根を登ってもう一度槍に来たい。頂上はもう御免。
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     ↓ 穂高の峰々
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     ↓ 常念岳
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 さあ下山だ。今度は私が先行し、降りて来る女房を待ち受ける。下山の方が怖いという人が多いが、私ははるかに登る方が怖かった。下を見ず、次の岩に足を掛けることに集中した。

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 槍の肩に無事降りてきた。「念願が叶って良かったな」。夫婦の美しい握手である・・・。ヘ、ヘ、ヘッ。  

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 まずは当然これ。大槍にカンパーイ。    

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 槍ケ岳の頂上に立ち、6時間余りが経った。私たちは夕食を終え、山荘の外に出て沈み行く太陽を眺めた。夕日に照らされた大槍の姿は息を呑むほど美しかった。

 頂上に立てた喜びが湧いてくる。しかし心のどこかに、何か引っ掛かるものがある。なぜ、あんなに無理をして登ったのだろう。頂上に立ったからといって、それが何なんだろう。そんなことを言えば身も蓋もないし、登山を愚弄することにもなるけれど、どうも素直になれない別の自分がいる。

 あれは催眠商法に似ているのではないか。催眠状態にさせられた客は正常な判断が出来なくなり、高価な商品を買わされる。私も「槍」という特別な雰囲気に呑み込まれ、我を忘れて登ったのかもしれない。それが何となく恥かしいのだ。

 そんな風に思うのは、ヘソが曲がっているからか、頂上に立てた余裕からか・・・。

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                         (続く)

 

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