森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

薪割りにも美がある・・・幸田露伴

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 10月29日、近畿地方に木枯らし1号が吹き、一気に寒くなった。朝の外気は5度を下回る日もある。わが家は、標高800メートル余りの山に建っているので、平地との温度差は5度ほど低い。薪ストーブに火を入れておかないと、かなり寒く感じるのだ。

 その薪ストーブだが、薪があれば燃えるという訳でない。木の枝や木片で作った焚き付けに火を着け、その炎で薪を燃やすのだ。うまくやらないと、なかなか燃えてくれない。ちょっとしたコツと経験が必要である。

 なくてはならないのが焚き付けなのだ。かまどや風呂を薪で焚いていた時代でも、そのかたわらに焚き付けの束が置いてあった。私は杉の丸太を長さ20センチくらいに切り、これを斧で大雑把に割り、鉈(なた)で細かく割って焚き付けを作っている。

 焚き付けは毎日使うものだから、大量にこしらえなければならない。この時期になると、暇があれば鉈を振るうのだが、これがなかなか楽しいものなのだ。

 スパッと割れれば気持ちが良い。しかし、力を入れ過ぎると、二つに割れた木片が遠くに飛んでしまい、拾い集めるのが面倒である。要するに力加減が重要で、割れる寸前に力を抜く技も必要だ。厄介なのは木に小さな節がある場合だ。頑迷と言うべきか、ちょっとやそっとで割れない。

 小さい頃、私の家では薪で風呂を沸かしていた。父親の薪割りを手伝っていたから、コツは体が覚えている。何年か前、薪割りをしていると、通りかかった地元の人が「上手やなあ」と褒めてくれたことがある。

 彼は私が都会育ちだと思っていたらしく、一刀両断で丸太を割るのが意外だったらしい。山村の生まれだったことを明かすと、うれしそうに頬を緩めた。

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 文豪・幸田露伴の一人娘で、随筆家、小説家の幸田文(あや)のエッセイに「なた」(鉈)という一文がある。彼女は少女時代に母親と死に別れ、露伴から口やかましく料理から掃除まで様々なことを叩き込まれた。「なた」は、薪割りについて露伴から教えられたことを回想しているのだ。

 実は、幸田文の本など一冊も読んだことがない。明治大学教授斎藤孝の著作「理想の国語教科書」に「なた」が掲載されていて知ったのだ。斉藤さんは、声に出して本を読む国語教育でよく知られる。この本には、選りすぐりの散文が数多く収録されており、なるほど、口に出して読むと日本語の美しい響きを体感できる。

 露伴は文が風呂の焚き付けを作る作業を見ていて、「力の出し惜しみをするな」と叱りつけ、「薪割りをしていても女は美でなくてはいけない。目に爽やかでなくてはならない」と難しいことを言い、彼女を辟易させるのだ。

 さらに、「えいと(鉈を)切りおろすのだ。一気に二ツにしなくてはいけない。二度こつんとやる気じゃだめだ。からだごとかかれ。横隔膜をさげてやれ。手の先は柔らかく楽にしとけ。腰はくだけるな。節のありどころをよく見ろ」・・・。

 露伴は、娘に体ごとぶつかるようにして様々な事柄を伝えた。その父と娘の対決には、鬼気迫るものがある。文が薪割りを通して父から教わったのは、生き方の美学であろう。「父の教えたものは技ではなく、これ渾身ということであった」と書いているのだ。

 渾身・・・。それは、何事においても力の出し惜しみをするなということだ。渾身の力を込めた行動には美があるとも説く。美しい日本の文化は、気合を込めた身体の文化として伝承されてきたのだ。露伴は、腰を浮かせて薪を割る娘を後ろから蹴飛ばしたという。恐ろしい父親である。

 私は時々、女房に薪割りをやらせてみるが、一向に上達しない。女だから仕方ないと思っていたが、この「なた」を読んで、文の真剣さに打たれた。今度女房が腰を浮かせて鉈を使っていたら、蹴飛ばしてやろう・・・。

 
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Comment
 
 遊び人 [URL] #-
先日は釣り場を教えていただき有難うございました。奥様の上手な釣り方に感心しています。まき割りの美学。何か武士道に通じるものを感じました。子供の頃お風呂の焚き付けに食堂のお箸で火を点け石炭を放り込んだ事を懐かしく思い出しました。あの頃は子供の仕事が沢山ありましたね。又ご指導の程宜しくお願いします。
 2012.10.30 (火) 21:07 [Edit]
 アガタ・リョウ [URL] #-
 お久し振りです。冒頭のマサカリのド迫力に、思わずのけぞって仕舞いました。嗚呼、ビックリした。
 そして、文章を読み進むに従って、大得心でした。幸田文については、些か私には思い出が在りまして・・・岸恵子と川口浩の<弟>の映画の影響が強くて、その原作本を買って来て読みました。私としては珍しい事でした。そして、唸りました。風景描写の素晴らしさに、日本語の美しさを感じました。そんな事で、別格の作家でしたから、父と娘のエピソードなどを文の肉声で聞いたり、他の人が云う父娘の関係の話などは、自然と興味が在ったので、良く覚えて居ます。

 兄貴のこの様な文章に接すると、共通項が在るみたいで、愚弟の私は非常に嬉しく為る物です。明治の男とは凄いですね。吾が子に対する眼力と躾け方が、半端じゃ無いですね。正に、己が分身に対峙して、鍛え上げる気迫は、荒削りの武士道精神の迸りなんでしょうね。男子を教育するのは、男の一生の仕事…なんて云う言葉を思い出しつつ、壬生義士伝なんかが、彷彿されました。へへへ。

それに引き換え、野田ドジョウ総理の言葉の多投だけが虚しく一人踊りする日本人の精神社会の荒廃さは目を覆うばかりの世相でしか有りませんね。
 2012.10.31 (水) 16:55 [Edit]
 森に暮らすひまじん [URL] #-
   遊び人さんへ

 釣り場は参考になりましたか?
最初に行った日高港は、これから寒くなるといい型のアジが釣れます。ご覧になったように、太刀魚もです。
 薪割りと武士道・・・。
面白い発想ですね。
なるほどと思います。
また、山に上がって来て下さい。
 2012.11.01 (木) 07:38 [Edit]
 森に暮らすひまじん [URL] #-
   アガタ・リョウ さんへ

 おはようございます。そちらも寒いでしょうね。
幸田文はよく知りませんでした。
「弟」という映画も、原作者も知りませんでした。
斎藤孝さんの本が縁で文を知ることができ、少し賢くなったような気分です。
 わが子を教えるのは、おっしゃる通り「男の一生の仕事」ですね。うれしい言葉です。現代の親たちに声を大にして言いたいですね。確かに、壬生義士伝の一節を思い出します。
 それにしても野田総理はひどいですね。最初は歴史の教養もあっていいかなあと思っていましたが、化けの皮がはがれてきてがっかりです。言葉と身の処し方が乖離していて、要するに「狸」なんですね。
 アガタさん、どうしましょうかねぇ。どうか、ブログで得意の論法で喝破して下さい。 
 2012.11.01 (木) 07:53 [Edit]
お久し振りです。少し私よりは兄貴かな?と思っていましたが・・ここまで考え方に年齢差があるは・・・・・
戦後生まれと戦前ででしょうか・・明治いやそれ以前の武士の様・・私も少し剣道を修行したことのある身ですが・・ブログを読んで、奥様に「薪を割る時は後ろにもきをつけてね」と言うつもりでコメント欄に目を奪われ文言を拝読して・・アングリでした。奥様にお伝え下さいませんか・・「田舎から・・後ろにも気をつけながらお過ごしください・・と言うとるで」・・・小さな声で・・

森林セラピーと鯛釣り 2012.11.08 (木) 20:52 [Edit]
 森に暮らすひまじん [URL] #-
   智頭のモヤイロープ人 さんへ

 はい、私の方が兄貴だと思いますが、戦後生まれですよ。そんなに、老けて見えますか?
 女房を後ろから蹴飛ばすなどと書いていますが、とんでもありません。恐ろしくて・・・。
 そもそも、私が現役で働いていた時は強かったのですが、退職した瞬間から力関係が逆転してしまいました。あなた様もそうじゃありませんか?
 それが情けなくて・・・。
 2012.11.09 (金) 17:53 [Edit]






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