森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

「雨月物語」と「茶わん祭り」

 大津の映画館で、「ご当地映画祭り」と題して滋賀にまつわる作品が2月中旬から順次上映されている。その第一弾は日本映画の巨匠・溝口健二監督の傑作「雨月物語」だ。上映の日を心待ちにしていたので、さっそく観に行った。昭和28年制作の映画であり、フィルムはひどく劣化していたが、傑作にふさわしい映像だった。

 この作品を観るのは、これで3度目である。何度観ても飽きることがない。戦国時代の湖北を舞台に、戦乱に翻弄される農民の姿が描かれている。ここは私の故郷であり、スクリーンに映し出される葦の湖畔や山にへばりつく田んぼの風景は、遠い記憶の中にある私自身の原風景なのだ。

 映画の原作は、江戸中期に書かれた上田秋成の「雨月物語」という怪奇読本である。映画の脚本家が近江を舞台にして書き直したようだ。セリフの中で、主人公の陶工が「金を儲けて中之郷に蔵を建てる」という下りがある。「中之郷」は、平成の市町村合併で長浜市に編入されたが、昔は余呉村の集落の一つである。映画はこの寒村から始まる。

 時代は、羽柴秀吉と柴田勝家による賤ケ岳の合戦の前夜だ。主人公の源十郎は農作業のかたわら陶器を焼いている。秀吉の軍勢が集結してにぎわう長浜の城下に、大八車に焼き物を積んで売りに行った。すると飛ぶように売れて大金を持ち帰った。

 妻(田中絹代)はお金よりも、親子3人の平穏な生活を望んだ。しかし源十郎は狂ったように陶器を作り、窯を焚いた。その最中、柴田の軍勢に襲われて山に逃げたが、この間に陶器は見事に焼き上がっていた。これを舟に積んで湖を渡り、また売りに行った。

 すると、市場の露店に美しい女性(京マチ子)が現れ、陶器を買った。品物を届けに行くと、そこは茫々とした湖畔に建つ広壮な屋敷だった。女性は、織田信長に滅ぼされた豪族朽木氏の姫・若狭と名乗った。源十郎はその日から、若狭と妖しくも甘美な日々を過ごすことになる。

 外出した源十郎は、修験者のような僧から死相が出ていると言われ、体中に厄除けの文字を書いてもらった。屋敷に帰ると、若狭に郷里へ帰りたいと訴え、半狂乱になりながら刀を振り回して暴れた。

 やがて源十郎は現実に引き戻された。意識を失って倒れていたのは、かつて朽木氏の屋敷があった場所だった。若狭との日々は幻だったのだ。

 源十郎が夜遅く故郷に辿り着くと、古ぼけた家に妻と子供が待っていた。夫の帰りを喜ぶ妻は、貧しくとも幸せに暮らそうとつぶやく。その切なく、しみじみと語る姿が、モノクロの見事な映像によって描かれる。

 しかし、源十郎が見た妻はすでに落ち武者に殺され、この世にいない。これもまた幻だったのだ。彼は土饅頭の下に眠る妻に詫びた。窯の煙がたなびく寒村の風景とともに、映画は終わる。60年前にこの映画が投げかけた意味について、下手な解釈はやめておこう。

 映画の舞台になった湖北地方に「上丹生」という100軒ばかりの集落があり、平安時代から続く「茶わん祭り」という奇祭が行われている。良質の陶土が産出し、この土で焼いた陶器が丹生神社に奉納され、これが祭りの始まりとされているのだ。昭和36年、滋賀県の無形民俗文化財に指定された。

 祭りは、数年に1回しか行われない。以前は3年ごとだったらしいが、前回は6年ぶりだったと聞く。祭りを行うには、踊りなど様々な祭りの役割を担う小学生が最低でも13人必要だそうだ。ところが現在は3人しかおらず、他の集落から借りることも禁じられており、当分祭りを行うことが出来ないという。

 永宝山、壽保山、丹保山の三基の山車が、祭囃子もにぎやかに集落を巡行する。山車には陶器と人形によって飾り付けられた高さ10メートルの支柱が掲げられている。古来の物語から芸題を選び、陶器と人形によってその場面を表現しているのだ。

 大津祭りや高山祭りのような華麗さはないが、支柱の飾りが倒れそうで倒れない絶妙のバランスによって組み上げられている。観衆はその危うさに歓声をあげ、どよめくのだ。

 皿、茶わん、花瓶などをわざとアンバランスに組み上げる技は、門外不出の秘伝である。集落でも数人しか知らないという。制作は上丹生にある資料館「茶わん祭の館」で進められるが、祭りの保存会のメンバーや職人の家族も立ち入ることが出来ない。集落の一部の人たちに連綿と伝えられる祭りの文化であり、「奇祭」と言われるゆえんなのだ。

 今私は、ブログを書きながら遠い昔の記憶を追いかけているが、朧(おぼろ)のようにもやもやしたものが晴れない。「茶わん祭り」をこの目で見たのか、見なかったのか・・・。錦をまとった山車が曳かれ、竹竿のような棒がしなり、飾り付けられた陶器がカランとう音をたてる。目を閉じると、そんな光景が浮かんでくる。しかも総天然色なのだ。

 しかしそれは、いつかテレビか何かで見た光景なのかもしれない。自転車で行ったのか、バスで行ったのか、誰と行ったのか、そのような具体的な記憶は何もない。時が経てば、人間の記憶はいい加減なものなのだ。まして年を取れば、「幻」と「現実」の間をさまよいながら生きているのかもしれない・・・。

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   08:21 | Comment:4 | Trackback:0 | Top
 
 
Comment
 
 アガタ・リョウ [URL] #-
 こんばんわ。雨月物語。私は映画館で一度、そして一か月ほど前、YouTubeで観ました。京マチコと田中絹代、どちらも二人の女を演じて居て、見応え充分でしたね。

 兄貴の物語紹介で、其々のシーンが、鮮やかに蘇って来ました。YouTubeで、日本映画の白黒名作群を観ると、思う事、胸に去来する事、現在の日本などを考えずには居られない事・・・色々です。

 お笑いタレント、芸NO人の喰い散らし、クイズ番組などをする予算が有ったら、日本の映画遺産なんかを放映して、その中に在るリニューアル版との比較で、目利きが語る名画鑑賞の様な日曜名画館の番組をNHKで遣って欲しいですね。日曜美術館に日曜名画館なんて、NHKの顔にも為ると思うんですがね。イッヒッヒ!!
 2013.02.24 (日) 20:45 [Edit]
 チェロ子 [URL] #m9ZvfgMk
こんばんは。
雰囲気のある文章で、私まで夢のような非現実の世界に触れた様な気がします。

最後の数行・・・私もそんな記憶がありまして、ふとよみがえってきたのでしばし意識が遠のきました。


夢か現 2013.02.25 (月) 22:35 [Edit]
 森に暮らすひまじん [URL] #-
   アガタ・リョウ さんへ

 今日もまた、マクドナルドからのインターネットです。おはようございます。
 映画については貴兄は実に詳しいですが、素人の私から見ても、モノクロはいいですね。なーんか、深みがあって。カメラマンも職人芸でしたよね。
 滋賀シリーズでは、寅さんもあります。見に行こうと思っています。寅さん、好きなんです。  
 2013.02.28 (木) 11:05 [Edit]
 森に暮らすひまじん [URL] #-
チェロ子 さんへ

 いつも有難うございます。
雰囲気のある文章と言ってもらって、すこし恥かしいです。それにしても、物忘れもひどく、昔の記憶もごっちゃまぜになり、何が何だか分からない有様です。しっかりしなきゃなりません。
 2013.02.28 (木) 11:09 [Edit]






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