高所恐怖症は健全な本能だ

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 木の家が好きで、ここ生石高原にログの山小屋を建ててちょうど20年になる。ログ材は、定期的に木材保護塗料(キシラデコール)を塗っておけば、それほど劣化しない。最近では、5年前に足場を組んでもらい全面的に塗った。

 ただ、西側の屋根付近は足場が低かったためオーバーハング状態で塗らなければならず、われら夫婦は高所恐怖症なので怖くて手抜きしていた。このためカビが目立ち、このまま放置しておけば、いずれ木が腐るかもしれない。

 「兄貴、早くクスリをかけないとダメよ」。仲間のPはわが家を見上げ、大袈裟に苦々しい表情をして見せた。彼は保護塗料のことを「クスリ」と呼び、「オレがクスリかけてやるよ」と言った。それは梅雨入りした頃だった。

 そして梅雨が明け、空気も乾燥してきたので、塗装作業をすることにした。2段の梯子を伸ばし、屋根の直下に立てかける。石や煉瓦などを使って梯子の根元を安定させた。

 「さぁ、兄貴登ってよ。支えているから安心よ」。Pは私の高所恐怖症を知っていて、こんな意地悪を言う。試しに登ってみたが、5段目以上には足を掛けられない。Pは100キロの巨体である。軽業師のように、15段ほどの梯子をあっという間に登ってしまった。わざと梯子を揺さぶってふざけている。

 落ちれば怪我では済まない。梯子が倒れないよう、必死になって押さえ付けた。Pは余りにも危なげな姿勢で作業をするので、気が気でない。「気を付けてよ」と声を掛けるが、「黙っててよ」と意に介さない。

 私はお金をもらってもこのよな作業は出来ない。極度の高所恐怖症なのだ。

 小さい頃、家の柿の木に登り、枝が折れて転落、一時気を失ったことがある。しかし、その後も高い所を怖がることはなかった。学生時代、友人たちと越前の東尋坊へ行ったことがあるが、断崖に平然とたたずむ私の記念写真がアルバムに貼ってある。そこは、今では考えられないような恐ろしい場所なのだ。

 では、いつから高所恐怖症になったのだろう。おそらく40歳くらいからで、次第にひどくなるばかりだ。大阪梅田のヒルトンホテルは中が吹き抜けになっているが、1階ホールを見降ろす場所に立った時、足がすくんでしまった。初めて味わう異様な感覚だった。それが40歳くらいの頃で、今もその時の恐怖が蘇るのだ。

 人間は誰でも高い所が恐ろしい。それは、防衛本能だろう。もしこれがなかったら、人類は次々高い所から落ちて、とっくに滅亡していたかもしれない。ただ、高い所が恐ろしいという一般的な感覚と、われら高所恐怖症とは異質のものだと思う。つまり、気が狂いそうになるのだ。死ぬより怖いのである。

 しかし不思議である。登山に行くと断崖絶壁に梯子や鎖がかけられているが、狂いそうなほどの恐怖はない。槍が岳の頂上にはほぼ垂直の梯子が二段あり、合わせて48段を登らなければならないが、発狂も失禁もしなかった。火事場の馬鹿力と同じなのか、山ではそんな異常な精神状態が起きるとしか考えられない。

 ところで、高所恐怖症を根本的に治す薬はないそうだ。恐怖心を和らげる薬もない。なるほど、それはそうだと思う。薬で恐怖心をなくしてしまえば、転落死が続発しかねない。高所恐怖症は命を守る本能なのだ・・・。
 
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コメント

来春には300メートルの高さに展望台ができます。ぜひともお来しください!!

    イレグイ号 さんへ

 へぇー、300mですかぁ。
北アルプスで鍛えていますから、大丈夫です。
機会があれば、是非・・・。   
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