紫蘇の佃煮と割烹着の女性

 足を投げ出し、だらしなく本を読んでいると、女房が「ちょっと味見して」と、作りたての料理を鍋ごと持って来た。その粒々の食べ物を見て、一瞬うろたえた。この料理にまつわる話は、他愛のない小さな秘密である。

 京都で勤務していた頃、祇園の裏通りにある割烹店にちょくちょく顔を出した。その店のカウンターの中に三十路と思われる和服の女性がいて、料理を出し、酌をしてくれた。

 彼女は堂々とした獅子鼻の持ち主だったが、なかなか愛嬌があって、それなりの魅力を備えていた。いつも着ていた割烹着の白色がまぶしかった。生まれは、丹後の山奥だと言っていた。彼女と話すのは楽しく、ついつい店に顔をだすようになったが、断じて下心があった訳でない。

 ある夏の日、店の大将が「これ食べてみて」と小鉢を出した。そこに一つまみほどの粒々が盛られていた。するとその女性が「私の母が作ったの。お盆に帰った時、もらってきた」と言った。

 粒々は紫蘇の実で作った佃煮である。口に入れるとプチプチした食感があり、初めて食べたのに、妙に懐かしい味がした。彼女の話によると、丹後の山あいの村ではどこの家でも作っており、ご飯に振りかけて食べていたという。

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 女房が作った佃煮をつまんでみた。程よい甘さに香ばしさが加わって実に美味しい。この日の朝、女優が宿坊を訪ねるテレビ番組があり、精進料理の一つとして紫蘇の佃煮が紹介されていた。紫蘇なら山小屋の畑にいくらでも生えており、女房は早速ネットで調理法を調べ、作ってみたという。

 この紫蘇の佃煮は、20年ほど前に通った割烹店を思い出させてくれた。もちろん、あの獅子鼻の女性の顔も重なった。元気にしているのかなぁ。そう言えばもう何年も前、彼女が再婚したことを風の便りで聞いた・・・。

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