一椀のとろろに涙する・・・

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 先日、高校時代からの古い友人が自然薯を送ってくれた。彼も私も山深い田舎の生まれで、家の近くの山にはたくさん自然薯が自生していた。私たちにとって、それは故郷の味でもある。

 子供のころ、父親から自然薯の掘り方を教わり、よく掘りに行った。長い芋を折らずに掘ってくれば、親から褒められた。それがうれしくてまた掘りに行った。

 母親は芋をすりおろし、辛みのある大根おろしに卵の黄身を混ぜ、砂糖と醤油で味付けした「とろろ」を作った。女房は早速、友人から届いた自然薯で「とろろ」を作ってくれた。昔の味と同じだった。

                        *      *      *

 「父上様、三日とろろ美味しゅうございました」・・・。

 このような書き出しで始まる遺書を残し、昭和39年の東京五輪マラソンで銅メダルに輝いた円谷幸吉選手は、自殺した。昔読んだ沢木耕太郎著「敗れざる者たち」の中の「長距離ランナーの遺書」にその全文が載っている。

 円谷選手は福島県須賀川市の出身である。この地方には、正月三日の朝にとろろを食べる習慣があり、「三日とろろ」と呼ばれている。一年の息災を願う意味が込められている。

 遺書には「美味しゅうございました」と繰り返し書かれており、それが物悲しい。身内の一人ひとりに別れを告げる律儀さ。もう走れなくなったと訴える悲壮感。その一字、一字が余りにも切ない。

 そして最後の一行に、万感の思いが込められている。読み終わって私は滂沱(ぼうだ)の涙を流した。


    【遺書】

父上様、
 三日とろろ美味しゅうございました。
 干し柿、もちも美味しゅうございました。

敏雄兄、姉上様、
 ブドウ酒、リンゴ美味しゅうございました。

巌兄、姉上様、
 しそめし、南ばんづけ美味しゅうございました。

喜久造兄、姉上様、
 ブドウ液、養命酒、美味しゅうございました。

幸造兄、姉上様
 往復車に便乗させて頂き有難うございました。

正男兄、姉上様
 お気をわずらわして大変申し訳ありませんでした。

幸雄君、英雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、良介君、
敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、光江ちゃん、彰君、
芳幸君、恵子ちゃん、幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、
立派な人になってください。

父上様、母上様、
 幸吉はもうすっかり疲れ切って走れません。
 なにとぞお許し下さい。
 気が休まる事もなく、御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。

幸吉は父母上のそばで暮らしとうございました。
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コメント

13日に拝読させていただき涙がこぼれそうになりました。あれから数日が経ち読み返してみても最初のときと同じように心が揺さぶられます。両親や兄弟などに対する心からのお礼と気づかいが伝わってきます。「疲れ切って走れません」と言わしめるほどの重圧と努力に言葉を失くします。省みて「もう走れません」と言えるほど私は努力をしたことがあっただろうかと自問自答してしまいました。

     redwine さんへ

 こんばんは。
円谷選手の遺書を読んでいただき、有難うございました。
 私も涙が止まりませんでした。
年をとって涙腺が緩み、困っています。
災害の現場を見て泣き、あまちゃんのドラマを見て泣き、小説を読んで泣き・・・。
 もうどうしようもありません。
以前は涙を見せることが恥ずかしかったのですが、今は堂々と泣いています。
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