森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

十一面観音・・・医王寺

 その十一面観音は「乙女の観音さん」と呼ばれる。名付け親は、文壇の大御所だった故井上靖さんである。昭和40年代に書かれた「星と祭」の中で、「人間にはありませんな、これだけの美人は」と言わしめたほどだ。

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                    ↑ 医王寺のアルバムを複写

 ここ北近江の木之本は、北国街道のかつての宿場町である。街道を真っ直ぐ北へ進めば越前に至るが、木之本の少し手前から北東に延びる道を辿れば、「乙女の観音さん」がひっそりとたたずむ医王寺の観音堂がある。

 前方には己高山(923m)が見える。この山では山岳仏教が花開き、伽藍をそなえた古刹があったが、火災によって灰燼に帰したという。天平から藤原期にかけての仏像群は村人たちの手によって救い出され、今に伝わっている。

 ここ北近江は「観音の里」と呼ばれているが、己高山の古刹を中心に観音信仰が広がりを見せたのだろう。山のふもとの古橋の集落には、己高山から救い出された多くの仏像が残されており、私の敬愛する口に紅をさした石道寺の十一面観音もその一つである。

 やがて、私の車は「川合」という集落にさしかかった。その名の通り、杉野川と高時川が合流している。医王寺は三差路を左に曲がり、高時川に沿って北上するのだ。ここからの景観は一気にひなびた感じになり、まさに北近江の奥地である。

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 私の携帯電話が鳴った。「今どこですか」。医王寺の世話役をしているお婆さんからだ。前もって拝観をお願いをしていたので、気を利かせて電話をしてくれたのろう。「私は先に行って待ってますから、どうぞ気を付けて来て下さい」と言う。拝観者が一人であろうと、二人であろうと、それが当たり前のように温かく迎えてくれる。

 吊り橋を左に見ながら車を進めると、「大見」という集落に着いた。わずか20戸で、人口の大半が65歳以上の限界集落だそうだ。萱葺きを瓦やトタンで葺き直した民家が山の斜面にへばりついている。車がやっと通れるほどの橋があり、そこを渡ればすぐ医王寺の観音堂があった。

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 世話役の女性が堂内の石油ストーブに火を入れて待っていてくれた。途中の店で買ったシュークリームを観音さんにお供えした。「乙女の観音さん」だから、甘い物は気に入ってもらえるだろう。

 厨子の扉が開かれたその瞬間、私は息を飲んだ。何と美しいのだろう。何と清純な顔立ちなのだろう。観音さんは男性でも女性でもないとされるが、この観音さんは間違いなく女性だと思った。瓔珞(ようらく)と呼ばれる装身具を見ても、乙女好みのアクセサリーと思えてしまう。

 国の重要文化財に指定されており、10世紀末から11世紀初頭の作とされる。楠の一木造りで、高さは152センチ。

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             ↑ 写真を複写
 
 明治20年ごろ、医王寺の住職が十数キロ南の長浜の古物店で、売りに出されていた十一面観音像を買い取り、寺に安置した。これが「乙女の観音さん」という。明治政府が神道と仏教を切り離す廃仏毀釈を布告し、仏閣や仏像は時代の荒波に翻弄された。この観音さんもそんな運命をたどり、古物商に引き取られたのだろう。

 観音像と蓮台は別々に造られているそうだが、ここの観音さんは一体型で、北近江では大変珍しいという。医王寺からそう遠くない向源寺には十一面観音の傑作とされる国宝の像があるが、これも同じタイプだという。となれば乙女の観音さんは、元々このあたりが生まれ故郷だったのかもしれない。

 そろそろ、いとまする時間になった。世話役のお婆さん(74歳)は「最後にどうぞ、須弥壇のそばまで上がって拝んで下さい」と言ってくれた。息を殺し、顔を近づけた。やはり、美人である・・・。
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   07:24 | Comment:2 | Trackback:0 | Top
 
 
Comment
 
 okumura [URL] #dvyZIwlA
混迷の世、人の命と幸せ感が後方に追いやられ経済優先の勘違いが横行する平成の時代。幸せって何だ?との問いに静かに応えてくれてるようなメッセージが観音シリーズから感じとられ心地よくてブログを開くのが楽しい日々、ありがとう
心洗われて 2014.01.16 (木) 12:28 [Edit]
  [URL] #-
    okumura さんへ

 コメント、有難う。
今のところ、湖北は雪が少く、観音巡礼は順調に進んでいる。
 折角大津に帰っているので、十一面観音さんを巡っているが、僕としては故郷再発見の旅と位置付けている。
でも、いつまでも観音さんとはいかないので、そろそろ打ち止めにしようかなと思っています。
 それにしても、貴兄の故郷は素晴らしい。
読んでくれて有難う。
 2014.01.17 (金) 17:11 [Edit]






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