森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

十一面観音…向源寺(渡岸寺)

 新年から近江の十一面観音を巡っているが、いよいよ、その最高傑作とされる渡岸寺(どうがんじ)の観音さんを訪ねる。観音堂はJR北陸線の高月駅から歩いて10分ほどの所にある。ここは田んぼに囲まれた農村地帯だ。

 像を所蔵するのは浄土真宗・向源寺だが、普通は「渡岸寺の観音さん」と呼ばれている。その昔、ここに渡岸寺という寺があったらしく、その後すたれ、地名として残ったと言われる。

 国宝の十一面観音は、奈良に3体、京都に2体、大阪、滋賀に1体づつの計7体ある。それらの多くは名のある寺院に祀られているが、渡岸寺の観音さんはずっと昔から集落の人たちが守り続け、今もそうしているのだ。

 戦国時代、織田信長が浅井長政を攻めた際、この一帯は戦火に包まれた。火は寺に迫り、民衆は観音さんを救い出したが安置する堂もなく、地中に埋めて守った。ここ湖北の観音さんには、戦禍をくぐり抜けた苦難のエピソードが多い。

vcm_s_kf_repr_468x351_20140120161530f56.jpg

 私が渡岸寺の観音さんを拝観するのは3回目である。1回目は1983年だったはずで、31年前になる。今のような立派な観音堂ではなく、歩けば床がきしみそうな古い建物だった。受付の古老がお堂まで案内し、説明してくれた。

 拝観した時の印象は、感動というより、驚きだった。そもそも、どうしてこのような立派な像がここにあるのだろう。観音さんがこれほど官能的であっていいのだろうか。当時の様々な驚きや疑問は、今も引きずったままだ。

 最初の時、1冊の写真集を買った。タイトルは「十一面観音」(平凡社)で、代表的な像の写真が載せられ、故井上靖さんが文章を寄せている。私はこの写真集を手にする度、表紙の裏側に掲載されている写真に戦慄するのだ。

vcm_s_kf_repr_351x468_201401201616254c1.jpg

 この写真は「暴悪大笑面(相)」と呼ばれるものだ。受け売りで恐縮だが、十一面観音の頭には「菩薩面」「牙上出(げじょうしゅつ)面」など十一の像が載っている。「暴悪」はそのうちの一つで、位置は真後ろと決まっているようだ。観音さんには光背があるので、通常は「暴悪面」を見ることが出来ないが、ここは周囲を回って拝観できるようになっている。

 暴悪面は、この世の悪人を代表するような形相であり、しかも憎々しげに大笑いしているのである。今にも飛び出してきそうな凶悪さ。人間の邪悪な心を見透かしているような目。民衆に救いの手を差しのべる十一面観音さんには似つかわしくない顔が、じっと私たちを睨みつけている。

 エッセイストの白洲正子さんは生前、しばしば渡岸寺の観音さんを訪れ、いくつもの文章を残している。彼女も「暴悪面」に大きな関心を寄せ、「渡岸寺の観音の作者が、どちらかと云えば、悪の表現の方に重きをおいている」とし、「(暴悪面は)悪を笑って仏道に向かわしめる方便ということだが、とてもそんな有がたいものと思えない」と断じている。

 ここの観音さんは威厳に満ち、堂々とした姿である。前々回のブログで書いた医王寺の「乙女の観音さん」のような親しみは感じない。ただただ威圧され、圧倒され、「ほぉー」と感嘆の声を上げるのが精いっぱいなのだ。

 平安初期の作で、作者は不詳。像の高さは194センチの長身、ヒノキの一木造りである。傷のない奇跡の観音さんだ。左手には病よけの水を入れた水瓶を持っている。右足のかかとが少し上がり、横から見るとやや前に倒れている。民衆に歩み寄ろうとする作者の意志が伝わってくる。

 人間一皮むけば、心の中は愛憎や嫉妬が渦巻き、物欲や淫らな欲にまみれている。暴悪大笑面は「へへへ、そんなもん、人間みんな同じや」と言いたげである。われら凡俗の徒は、その一言に救われるのだ・・・。

vcm_s_kf_repr_338x480_20140120155724d5c.jpg
       渡岸寺の十一面観音(コピー)

vcm_s_kf_repr_468x351_201401201617209fe.jpg
            右の建物が収蔵庫。観音さんを360度回って拝観できる。


 
 
スポンサーサイト
   06:58 | Comment:0 | Trackback:0 | Top
 
 
Comment
 






(編集・削除用)

 

管理者にだけ表示を許可
 
 
Trackback
 
http://yoko87.blog74.fc2.com/tb.php/923-0eef3a45
 
 
カレンダー
 
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
 
月別アーカイブ
 
 
カテゴリー
 
 
ブログ内検索
 
 
全記事表示リンク
 
 
 
訪問者数
 
 
ランキング参加中!
 
 
リンク
 
 
PR
 
 
PR
 
 
PR