森に暮らすひまじん日記

第二の人生を歩む私たち夫婦は、和歌山の生石高原に近い森の中で暮らしています。豊かな自然の恵みにあずかりながら、有機栽培で野菜を育てたり、近くの渓流や海で魚を釣ったりする気ままな日々です。そんな暮らしぶりを綴っています。 
 

北穂高岳・・・その2

 涸沢小屋から北穂高岳(3106m)山頂に向けて歩き始め、3時間近くが経過した時だった。ガスに包まれた頂上付近を見上げ、目を足元に戻すとグラッと体が揺れた。そして、たたらを踏むように足取りが乱れた。

 実はその少し前、軽い吐き気がし、冷や汗のようなものが出た。どうやら高山病らしい。3000m級の山はいくつも登っているが、このような症状が出たのは初めてだ。これまで、高山病は他人事だと思っていた。

 涸沢から頂上まで標高差で700mほどあり、急な斜面をよじ登って高度を稼ぐ。いくら私が鈍足でも、この高度差が影響したのだと思う。前夜、よく眠れなかったのも遠因になったのかもしれない。

 症状はごく軽いものの、それでもフラフラして岩にぶつかりそうになったこともあった。高山病には下山が最大の良薬だが、ここまで登って下山するのはいくらなんでも無念だ。しっかり岩をつかみ、一歩一歩、慎重に登った。

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 何とか、涸沢岳方面への分岐まで来た。ここでしばらく休息をとると、吐き気が治まるなど、症状はだいぶん改善した。ここから山頂まで200mだ。もうひと踏ん張りだが、なかなか頂上に辿り着けず、もどかしい。

 ガスをかき分けるように登ると、突如、山頂に着いた。「3106m」の標識が立っている。そこは、10m四方くらいの広さで、絶壁の上にある。ガスで下は見えないが、晴れていたら高度感があり、ゾッとしたはずだ。

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 そこから階段を少し下ると、猫の額ほどの場所に北穂高小屋があった。まるで岩にしがみついているように見えた。前回書いたが、小屋は戦後間もなく、小山義治さんが独力で建設した。この人は、穂高に数々のルートを開拓した山男だが、なかなかの文化人でもあり、絵画や音楽を愛した。小屋で定期的に行われるレコード・コンサートは有名だそうだ。

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 小屋のテラスから眺める槍ヶ岳は絶景であり、私たちもそんな景観を楽しみにしていたが、もちろんテラスはガスの中。小屋に入り、煎れたてのコーヒーを飲んだ。寒かったので、熱いコーヒーはおいしかった。コーヒー茶碗には、高山植物のイワツメグサの花が描かれており、小屋のトレードマークになっている。

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 山頂にこれ以上留まっても、ガスが晴れることはないだろう。絶景を見られなかったのは残念だったが、それでも夫婦でともに山頂に立つことができ、それはそれで大きな喜びである。小雨が降り続く中、ゆっくりと下山することにした。

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 長い梯子と鎖場が続く北穂一番の危険な場所に来た。下を見ると、ピンク色の雨具を着た女性に、二人の男性が寄り添っている。何をしているのだろう。ここは一方通行なので、彼らが登って来るのか、下るのか見極めるため、しばらく様子を見ていた。しかし3人は座り込んだまま、動こうとしない。

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 私たちは下ることにした。女房が先に行き、女房が下り終えたのを確かめて私が下った。私の高山病は高度が下がったので、すっかり治っていた。座り込んだ3人に話しかけると、年配の男性は「登る途中、女房が滑って落ちたんです。どうやら肩を脱臼したようです」と言い、女性は苦痛で顔を歪めていた。もう一人の男性はたまたま通りかかったらしい。

 私たちは、携行していた鎮痛剤と湿布を使ってもらおうと思ったが、彼女はすでに痛み止めを飲んでいた。それにしても、雨に濡れたこの場所は危険だ。後で聞いた話だが、女性はかなりの登山のベテランで、北穂高小屋に泊まるため頂上に向かっていたと言う。ベテランでも、ちょっとっした油断が事故を招くのだ。

 手を貸そうと思ったが、われらには偉そうに言えるほどの体力も脚力もない。夫婦はすでに救助隊を呼んでおり、先に下山することにした。その途中、山小屋に詰めている救助隊が次々と登ってきた。われらが涸沢小屋に着いてしばらくすると、女性は救助隊にかつがれて下山してきた。

 半時間もしないうちに、ヘリコプターが飛来し、女性とご主人を収容して飛び立って行った。これがもし民間のヘリなら50万円ほど請求されるらしい。登山には様々な危険が潜んでおり、気の毒なこの夫婦を見て、改めて安全な登山を胸に刻んだ。

 上高地に下山してからの話だが、バスの待ち時間に登山相談所の人としばらく話した。彼によると、雨の多かったこの夏、事故は毎日のように起きており、この日も北穂高の別の場所で転落事故があったという。さらに、薬師岳では京大生2人が沢に流された。この翌日知るのだが、二人とも遺体で見つかった。

 相談所の彼は憤慨しながら早口でまくしたてた。「先日は、登山ガイドが付き添っていながら登山者が100m転落して死亡した。とくに、経験の少ない若者の事故が多い。大きな声では言えないが、経験の浅い人の入山を拒否したいほどだ」。

 話が前後したので、元に戻そう。ヘリに収容された夫婦を見送りながら、この日涸沢小屋に泊まるか、それとも3時間かけて横尾山荘まで下るか迷っていた。私は北穂に登って疲れていたが、女房は次の日が楽になるので横尾へ下ろうと言い出した。仕方なく、とぼとぼと女房の尻を見つめながら下山し、この日は横尾山荘に泊まった。

 翌日の最終日は、上高地まで3時間ほど歩くだけだ。前夜は風呂に入れたので、すっかり疲れがとれた。横尾山荘を出発してしばらくすると、ヘリコプターが飛んで来た。ブルーの機体に赤い線が入っており、県警のヘリだろう。その後何回も行ったり来たりしており、また事故があったに違いない。

 徳沢を過ぎたあたりで、梓川の向こう側に虹がかかっており、思わず美しい光景に見入ってしまった。それにしても、この夏の天気予報ほどあてにならないものはなかった。今回は、好天の予報がまさかの連日の雨。山の天気だから、愚痴を言っても始まらないが・・・。

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                                                          (終わり)
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   07:07 | Comment:2 | Trackback:0 | Top
 
 
Comment
 
 イレグイ号 [URL] #-
山歩きというより本格的な登山ですね。
1フロアを上ると目眩がしそうな体にはとてつもない行動に思えます。(僕は標高5メートル差で高山病になる体質なのかもしれません・・・)

海も山ほど危険はないかもしれませんが、よほど慎重に行動しなければといつも気をつけているつもりです。臆病者と言われても慎重すぎるくらいがちょうどいいと思っています。
事故には気をつけて楽しい登山を続けてください!!
 2014.09.10 (水) 22:00 [Edit]
  [URL] #-
      イレグイ号 さんへ

 私も高所恐怖症です。
登山の日はガスがかかっていて、下が見えません。
晴れていたら、相当な高度感があったと思います。
無事に帰れて、ほっとしています。

 それにしても、鈴鹿市指定ゴミ袋のご利益か、ちゃんとした理由があるのか、面白いですね。
立派な鯛はお見事です。
太刀魚も並べて、将来は鮮魚店でも・・・。
 2014.09.11 (木) 18:33 [Edit]






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